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2009年7月

2009-07-28

姿を隠しただけの「彼」?

『ユリイカ』のイーストウッド特集号の読み残していた部分を読んでいたのですが、ちょっと引っ掛かってしまった文章箇所がありました。

それは巻末にある作品解説:「監督作品ガイド」中の、三浦哲哉氏(映画研究/表象文化論)の執筆による『チェンジリング』の項の一節です。

以下、該当部分を引用。



…アンジェリーナ・ジョリーが繰り返す「息子はどこ?(Where is my son?)」の叫びは、『父親たちの星条旗』における老いた元衛生兵の「彼はどこだ?(Where is he?)」と響きあっている。「彼」とは戦場で見失った戦友のことだが、しかしその「彼」はそれきり決定的に消えたわけではない。「彼」は姿を隠しただけで、再び現在において見出される可能性があることがこの作品の最後では示される。あるいは『硫黄島からの手紙』で埋められ忘れられていたはずの兵士たちの手紙。




三浦氏は『チェンジリング』を、イーストウッド作品における「希望」の主題と絡めて解説しており、それ自体は興味深いものであり、上で引用した部分についても着眼点としては面白いと思います。
ですが、“「彼」はそれきり決定的に消えたわけではない”という深読みの指摘は、ちょっと違うのではないかと思うんですよねぇ~。


まず、『チェンジリング』については言わずもがなですが、主人公クリスティンの息子の死体は発見されていないから、彼女は自分の目で息子の死を確認しておらず、ラスト前のシーン、生きていた少年の証言から生存の可能性が少しでもあることを確信する。それが「希望」となるわけですよね。


一方の「星条旗」ですが、「彼」=戦友とはジェイミー・ベル演じるイギーであり、戦闘中に彼が姿を消したシーンの後にすぐ、主人公ドクが洞窟で彼を発見するシーンに続きます。
このシーンは、ドクを洞窟に案内した兵士が「たぶん味方だ。ひでえことをしやがる」と語った後、ドクの顔のアップだけで彼が何が見たかは観客には見せられませんが、前後の流れと直後のドクの呆然とした顔を判断すれば、それが日本兵に拷問され死んだ、惨たらしい姿のイギーであったことは間違いないでしょう。


Foofまた、ほとんどラスト近く、ドクがイギーの母親の家を訪ねるシーンがあります。
ここで(ドクの息子の)ナレーションが被さりますが、はっきりとイギーの死について触れており、「息子がどのように死んだのか母親は知りたがったが誰も答えず、父もその真実を伝えたかはわからない」とあります。


以上のことから、戦友イギーの死は疑いのない事実であり、だからこそドクは最期までそのことに苦しみ、自身の戦争経験を語りたがらなかったわけで、息子の生存を信じて死ぬまで「希望」を持ち続けたクリスティンと死ぬまで友人の死の呪縛から逃れられなかったドクとは間逆の立場だと思います。
クリスティンの "Where is my son?" は「希望」ですが、ドクの "Where is he?" は「後悔」の念を意味しているのであり、両者を結びつけるのは、ちょっと無理があるかと。


もう一度、引用部分に戻りますが、

“再び現在において見出される可能性があることがこの作品の最後では示される”とありますが、それって、同じ小隊の兵士たちによる海水浴のシーンなのかな?



自分の読解力不足か?と該当箇所を繰り返し読んでみたのですが、ここで三浦氏が言う“この作品”とは、『チェンジリング』ではなく「星条旗」の方ですよね??
海水浴のシーンについては、素直に観れば、原作にも記述されている、戦闘中の合間にあったつかの間の休息→硫黄島で一番楽しかった思い出の回想だろうし(ここのナレーションは「彼らを称えたいのなら、ありのままを心に留めよう」)、少し深読みするなら「天国での再会」のシーンともとれるんだけど、氏の“再び現在において見出される可能性がある”というのは、“亡くなった兵士たちの存在を忘れることはないだろう”という意味なのか??

う~ん、わかんない!

2009-07-25

旭日中綬章の授与

 
 時事通信より。

・C・イーストウッド監督に旭日中綬章=日米の相互理解に貢献。(2009/07/23-12:10)

Spring_decoration_3
【ロサンゼルス時事】
 在ロサンゼルス日本総領事館で22日、米映画監督・俳優のクリント・イーストウッド氏(79)に「旭日中綬章」が授与された。第2次大戦末期の硫黄島での激戦を敵国・日本兵の視点で監督した米映画「硫黄島からの手紙」などを通し、両国間の相互理解の促進と友好親善に寄与した功績が認められた。
 薄青色のスーツ姿のイーストウッド氏は同日、ロス市内の総領事公邸で開かれた叙勲伝達式に出席。日本政府を代表して伊原純一総領事から勲章を首に掛けられると、幾分緊張した面持ちで、「長年平和な日米の関係をわれわれは当然視してはいけない。戦争を通した両国の犠牲者を忘れるべきではない」と語った。



同内容ですが、

eiga.com:http://eiga.com/buzz/20090724/3
CINEMA TOPICS ONLINE:http://www.cinematopics.com/cinema/news/output.php?news_seq=8806

2009-07-21

ぴあフィルムフェスティバルのチラシ

現在開催中の「第31回ぴあフィルムフェスティバル」の招待作品部門、
イーストウッド!~映画監督クリント・イーストウッド誕生~”のチラシです。

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チラシ裏面
(クリックで拡大)


同フェスティバルの上映作品紹介ページ

2009-07-17

『グラトリ』関連(CNN インタビュー)

久しぶりのトピですが、ネタ自体は去年の12月29日のもので半年以上経ってしまい、もはや賞味期限ぽいのですがとりあえずどうぞ。

いつも通りの自己流の拙訳ですので悪しからず。
(一部協力:むっしゅ様、サンクスです)

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At 78, 'politically incorrect' Eastwood still finds edgy roles
(今もなお目新しい役を探す、78歳で“政治的に正しくない”イーストウッド)

構成: KJ Matthews (CNN)


カリフォルニア州ロサンゼルス --- クリント・イーストウッドは自分が伝説であるという自覚がない。

「伝説なのかもね。で、どんな伝説?」とトボケたあと、彼はジョン・フォード監督の『リバティ・バランスを撃った男』の台詞を引用した。
「伝説が事実とは違ったとしても、伝説の方が記事になる」。

しかし、50年間以上に渡って彼は銀幕の上に登場しカメラの後ろに立ってきた。
出演作には『ダーティハリー』、『ダーティファイター』、そして3本の“名前のない男”の西部劇などがある。
彼は4つのオスカーを所有し(『許されざる者』と『ミリオンダラー・ベイビー』でそれぞれ最優秀監督賞と最優秀作品賞を)、そして他の部門で6度ノミネートされている。

彼が映画界に送り出した最新作は『グラン・トリノ』だ。
この作品で彼は、移民の隣人によって自分の偏見に直面せざるを得なくなる 朝鮮戦争の帰還兵ウォルト・コワルスキーを演じ、また監督も務めている。

コワルスキーは無愛想なうえに時折偏屈になるというわかりやすいタイプの老人で、実際口にすることのほかに本心を隠しているようにも見える。初めのうちこそあまり思いやりがないが、「最後に彼はそれまで知らなかった家族愛を持つまでになるんだ」とイーストウッドは言う。

CNNは、映画、俳優としての将来、映画賞の予想などイーストウッドと語った。
以下は、そのインタビューの編集バージョンである。

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CNN:脚本を読んだとき、まず言葉の性質が気になりませんでしたか?


イーストウッド:いや、ならなかったよ。映画の登場人物がなにかを学び成長していくのだとすれば、まずは寛容さを学ぶために成長する以前の姿であるべきだしね。いくつになってもそれを学ぶことができるのは間違いないから、今回の主人公も最初はあんな感じで描かれていたんだ。

でも、政治的に正しくないのを承知で言えば、それを魅力的だと感じるよ。なにしろ私はいわゆる”PC”(ポリティカル・コレクトネス=“政治的正しさ”の略語)とかいうものが嫌いだからね。あれは、いまを生きる我々の世代にとって有害なことのひとつだね。誰もが自分のことや社会のことをシリアスにとらえすぎている。もうすこしリラックスして自分や社会のことをちょっと気楽に考えれば、人生はもっと楽しくなるのに。


CNN: 今回の脚本はニック・シェンクのオリジナルですね。 いやはや、いきなりの満塁ホームランですよね。クリント・イーストウッドを自分の企画に引っ張りこめたなんて。

イーストウッド:えーっと、それについては面白い話があったよ。諸事情があって、彼は脚本を我々の元に届けるのに苦労したんだ。ともあれ彼らはなんとかそれを私の仲間であるロブ・ローレンツに届けた。それを読んだ彼はこう言ったよ。「まあ、けっこう面白いよ。君なら主人公のことを面白いと感じるんじゃないかな」ってね。

彼いわく「彼はなんていうか・・・いわゆる人種差別主義者なんだけど・・・ちょっとした曲者なんだよ」。そこで私はこう答えた。「なんか面白そうだな。読んでみるよ」と。

つまり、彼は君が言っていることと同じことを私に言ったんだ。「政治的にはあんまり正しくないんだけどね」と彼が言ったから、私は「そいつはいい。読ませてくれよ。今夜読むから」と答えたよ。


CNN: 長いキャリアの中で非常に多くの作品を撮っているにもかかわらず、あなたがまだそのような目新しい題材を探しているのは素晴らしいことですね。 明らかにテレビに転がってるというわけではない題材ですから。
それで私は、あなたは今後は何度も役を演じるかどうかはわからないと聞きましたか?

イーストウッド:そうは思ってないよ。
ただ、今後も多くの素晴らしい役、もしくは君の言うような目新しい題材があるとは思えないということさ。


CNN: 典型的なシニア俳優にとって目新しい題材ではないとしても、あなたは伝説的ですからね。 なにしろ、相手はクリント・イーストウッドです。あなたを想定して脚本を書く人も多いと思うんですけど。

イーストウッド:その理由はこうさ。私はカメラの後ろにいるのが楽しいからなんだ。
単に演技の一部分だけはなく作品全体にかかわりたくて、38年前に演出を始めた。 そのうちに映画全体を見渡すことが私にとって面白くなったきたんだ。

だからこそ、その定位置を楽しんでるんだ。次回作ではモーガン・フリーマンをカメラの前に立たせ、私はカメラの後ろに控えることになる。その位置こそが自分の居場所だと思うからね。

CNN: あなたたちは(ネルソン・マンデラを描く)その作品を南アフリカで撮る予定ですね?

イーストウッド:ああ、そうさ。


CNN: 現在、あなたたちは親友ですね。

イーストウッド:そうだね、私たちは長年にわたり一緒に映画を撮ってるがこれが3本目になる。
他の2作品『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』)はまずまず成功しているように思えるから、私たちがその傾向を保てるよう願うのみさ。


CNN: あなたには『チェンジリング』があって、次に『グラン・トリノ』があります。
それら両方が多くの注目を集めています。
恐らくあなたは多くの(映画賞の)ノミネートを受けるだろうと言われていることについて手応えは?

イーストウッド:: う~ん、どうだろうねぇ。その件については考えてないよ。
私はただ映画を作っているだけで、結果はあとからついてくるだけさ。 誰かがその作品を気に入ってくれる人がいたら、それはいつだって嬉しいし、もし気に入ってくれなければすごく残念だね。

結局、自分なんだ・・・自分は毎回映画をつくってるだけなんだよ。実際、自己表現したくて自分のために映画を撮っているようなところもある。もしくは、それが自分が入り込んでみたい物語の場合にね。それをどんな人が観るかについては深く考えたことがないよ。そして作品が完成してようやくこう思うんだ。「ヤバイ、みんながこの映画を観たがるかどうか確かめなきゃ」ってね。

だから、今はその段階ということだね。少なくとも『グラン・トリノ』については。

2009-07-06

『グラン・トリノ』雑感(その4/最終回)

◆ 主題歌


『グラン・トリノ』のサントラって、発売されてないみたいですねぇ。
ジェイミー・カラムが歌う主題歌も、店頭販売はされず、ネット上のダウンロード販売のみのようで。

米ワーナー・ブラザース映画の2008年の“FYC”サイト(オスカー会員に自社の有力作品へ投票を依頼するサイト)では、サントラのスコアと主題歌が聴けて、MP3でPC保存も可能だったのですが、授賞式が終わった後は『ダークナイト』は残って「グラトリ」のページは削除されてしまいました。
私はとりあえず主題歌(イーストウッド&カラム・バージョン)だけ保存しておいたのですが、他の曲も保存しておけば良かったッス。

確か10曲くらい、トータルで15分程度の収録なので、アルバムとして販売するにはちょっと無理なのかな。
ネット・オークションでは、CDが出品されてますが、恐らくオスカー会員に配布されたと思われるデモ盤なんでしょうね。


というわけで、「グラトリ」雑感の最後はカラオケ大会ということで(笑)、
皆様各自で歌って下され。



・ ミュージック・ビデオ:↑
http://www.youtube.com/watch?v=NoLc43YuuTw

・ イーストウッド&カラム・バージョン
http://www.youtube.com/watch?v=HEXF7U5TYV8



・ 歌詞

Gran Torino by Jamie Cullum

[*Sung By Clint Eastwood*]

So tenderly your story is
nothing more than what you see
or what you've done or will become
standing strong do you belong
in your skin; just wondering

gentle now the tender breeze blows
whispers through my Gran Torino
whistling another tired song

engine humms and bitter dreams grow
heart locked in a Gran Torino
it beats a lonely rhythm all night long
it beats a lonely rhythm all night long
it beats a lonely rhythm all night long


[*sung by Jamie Cullum*]

Realign all the stars above my head
Warning signs travel far
I drink instead on my own Oh! how I've known
the battle scars and worn out beds

gentle now a tender breeze blows
whispers through a Gran Torino
whistling another tired song

engines humm and bitter dreams grow
heart locked in a Gran Torino
it beats a lonely rhythm all night long

these streets are old they shine
with the things I've known
and breaks through the trees
their sparkling

your world is nothing more than all the tiny things you've left behind

So tenderly your story is
nothing more than what you see
or what you've done or will become
standing strong do you belong
in your skin; just wondering

gentle now a tender breeze blows
whispers through the Gran Torino
whistling another tired song
engines humm and bitter dreams grow
a heart locked in a Gran Torino
it beats a lonely rhythm all night long

may I be so bold and stay
I need someone to hold
that shudders my skin
their sparkling

your world is nothing more than all the tiny things you've left behind

so realign all the stars above my head
warning signs travel far
I drink instead on my own oh how ive known
the battle scars and worn out beds

gentle now a tender breeze blows
whispers through the Gran Torino
whistling another tired song
engines humm and better dreams grow
heart locked in a Gran Torino
it beats a lonely rhythm all night long
it beats a lonely rhythm all night long
it beats a lonely rhythm all night long

2009-07-05

『グラン・トリノ』雑感(その3)

※※※ ネタばれ全開ですので、作品を未見の方は御注意下さい ※※※

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最後は、いつも通りのしょうもない“小ネタ”など。


◆ ドリーマ・ウォーカー


イーストウッドの他に特に有名な役者は出演していないという点で『ホワイトハンター ブラックハート』に匹敵するであろう「グラトリ」でしたが、個人的に目を引いたのは、ウォルトの孫でモン族のスーとは全く対照的だったビッチ娘、アシュレイ・コワルスキーを演じたドリーマ・ウォーカー(Dreama Walker)でしょうか。


Dreama_2IMDbでチェックしてみると、フロリダ州タンパ生まれで現在23歳、

テレビシリーズを中心に活動していますが、まだ下積み時代というか、シリーズの単発エピソードの端役で出演程度。
映画では『セックス・アンド・ザ・シティ』がありますが、これもウエイトレス役。

「グラトリ」の出演で顔が売れたせいか、『アグリー・ベティ』の1エピソードや『ビバリーヒルズ高校白書』のニューヨーク版(?)『ゴシップガール』の数エピソードに出演となり、今後はインディペンデント系の映画2本に出演が決定してますが、まだまだブレイクという感じではないようで。

タイプとしては、マルパソの新・極悪ミューズ:リキ・リンドホームに似ているので(顔はこちらの方が可愛いと思いますが・笑)、ホラー映画によく合うと思うんですが、今後も気にしてみたい女優さんでした。




◆ 
Bonkuraken


イーストウッド作品に登場する犬はどうも風采が上がらない感じというか、ボンクラなキャラな多いですね。

『アウトロー』の“唾犬”、『ダーティハリー4』の“ミートヘッド”、今回のデイジーと、どの犬もイーストウッドに邪険にされても、主人を慕う姿がなんとも愛おしいです。

イーストウッド作品において長年連れ添っているペットとしては(クライドは除く・笑)、デイジーが初めてかな?
あっ『タイトロープ』にも出てた気が、セントバーナードだったけ? あんまり印象に残ってないなあ。


デイジーはその後タオの婆さんとは仲良くやってるのだろうか・・・。



◆ デトロイト

本来、ミネソタ州ミネアポリスが舞台であったのにそれをデトロイトへ移したのは、ミシガン州が映画製作費に対して税額控除をして、州内での映画撮影を誘致してるせいなのだけど、デトロイトって、『ロボコップ』とか『ビバリーヒルズ・コップ』とか『8マイル』とかで、治安の悪いってイメージがあるんだけど本作もそんな感じで、街のアピール効果としては逆効果だと思うのですが、どうなんでしょう。
とりあえず金は落ちるから、イメージは関係ないか(笑)。
あっ、でもデトロイトを舞台にした作品って傑作が多いですね。今気づきました。




◆ 「日本での興行成績


米興行情報サイト "BOX OFFICE MOJO" のインターナショナル・ページによると、
5月23‐24日付、第13位で累計額が、$10,187,296 となっています。


翌週からは20位圏外に落ちてデータが載ってないため、これ以降の数字は不明ですが、1ドルを約97円で換算すると、9億8千800万円ぐらいで、『ターミネーター4』が公開された6月中旬にはほとんどの劇場で上映が終わってることを考えるに、最終的に10億円いってるかどうか・・・。

これは「スペカウ」「ミスリバ」と同等の数字なのですが、イーストウッドが日本で再評価をされ出す以前の前者とは違って、「グラトリ」は前評判および公開中の観客の反応も概ね良かっただけに、かなりトホホな成績と言えるでしょう。

4月~5月の興行は『レッドクリフ2』が全国で700スクリーンと小屋を独占していたという不運はあったものの、270スクリーンの「グラトリ」に対し、半分以下の120で公開した『スラムドッグ・ミリオネア』がしっかり11億に乗せてるのだから、これは宣伝と興行の仕方がかなりお粗末だったとしか言いようがないですね。

ゴールデン・ウィーク期、ワーナー日本支社は「グラトリ」の他に、国内の製作会社と共同出資した邦画『おっぱいバレー』(松竹・250スクリーン)と『GOEMON』(東映・300)の3本で勝負だったのですが、「おっぱい」が5億、『GOEMON』が14億(製作費15億)と見事に総コケ状態。

各作ともそんなに数字は期待出来ないから、3本まとめて同時期に公開したと思われますが、東宝が経営するシネコンであれば、自社の「レックリ」「コナン」に大きな小屋を優先させるのは目に見えてるのだし、ワーナーのシネコンでも前者の作品は上映するし、無理に3本突っ込めばその分上映回数が減っちゃうんじゃないかな。
自分で自分の首絞める興行のような気がするんですけど。

「グラトリ」については、夏に「ハリポタ」が控えてる関係でGWに持ってきたと思われますが、本国のコンテンツをまんま移植した公式サイトを見ても「なんかやる気ねえなあ~」って感じでしたからね。(ダウンロード用壁紙のタイトル・ロゴを最後まで変えていなかったのにはさすがにあきれました・笑)
ポスター・チラシもとりあえず本国と同じデザインにしておけば、アクション映画とカン違いした若い層が入るだろうに、内容が何だかよくわからない半端な作りで訴求力が感じられず、今や常識のテレビ洋画のタイアップ放送も無しで、客を来させようとする努力が全然感じられませんでした。


因みに、先に公開された『チェンジリング』は、300スクリーンで約12億3000万円の成績。
配給は天下の東宝東和で、アンジー主演ということもありましたが、子供を誘拐された母親の悲劇という点を女性客にしっかり訴えた分、「グラトリ」よりも数字が上回りましたな。。
こちらの公式サイトにはブログパーツを用意してたりして、「少しでもヒットして欲しい・・・」という熱意が感じられましたが、まあ普通はこうですよね。


また、最近の洋画は公開に際し、“宣伝部長”として芸能人を起用して売り込みに必死ですが、「グラトリ」の場合は、鳥越俊太郎と徳光和夫両氏がそれに該当するのか、試写会で対談、これを、"eiga.com" 他が、“鳥越俊太郎×徳光和夫が“理想の死に方”を語る、「グラン・トリノ」試写会”というタイトルで報じましたが、そりゃ思いっきりネタばれだろって(笑)。
上映終了後のトークということなので会場にいた人たちには害はなかったといえ、これから観る人には迷惑このうえない
プロモーションでしたな。



◆ 「パンフ、「キネ旬」&「ユリイカ」

劇場パンフはまあまあでしたが、200円安い『チェンジリング』と比べると物足りない気も。
「プロダクション・ノート」で、モン族、タオとスーのコメントについてサラっと触れてましたが、ここら辺は独立した項で詳しく書いて欲しかったです。

「イーストウッド年表」みたいなのも毎回パンフに載っており、正直「またかい」と思うのですが、まあ初めてイーストウッドの作品を観てパンフを購入した方もいるだろうから、これは仕方無いんでしょうな。


「キネ旬」は、相変わらず「小林×芝山・対談」が素晴らしかったです。

原語のセリフなど芝山氏の小ネタ解説もかゆいところに手が届く感じで、雑感のネタにしようかと思っていた点もあり、調べる手間が省けました。

「ユリイカ」は、雑記帳の引越し作業の件もあって、実はまだ半分程度しか読んでません。

「ハスミン×黒沢・対談」は「小林×芝山・対談」とは違った意味で面白いのですが、最後の方はお互いをヨイショする展開になってるのがちょっと(笑)。

こちらの執筆陣は全体的に“カイエ派”や哲学・思想系の人が中心なので、「小林×芝山」両氏が純粋な映画ファンの目線で語っていたのと比べると、かなり小難しいのですが、作品論にとどまらずイーストウッドの作曲について書かれた文章なんかは面白かったです。

ただ押井守の『スカイクロラ』と「スペカウ」を比較した文章はよくわからんでしたなあ。
『スカイクロラ』が未見なせいもあるとはいえ、何が言いたいのかさっぱり・・・。

あと、BBSでも指摘してくれた方がいましたが、キネ旬とインタビューの内容が同じだったのはちょっと残念でしたね。

2009-07-04

『グラン・トリノ』雑感(その2)

※※※ ネタばれ全開ですので、作品を未見の方は御注意下さい ※※※

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◆ 日本語字幕について


・ ウォルトの最後のセリフ

トピックスの翻訳でいつもアドバイスを受けてお世話になっている「がんばらない英会話」の管理人:“むっしゅ”さんに戸田奈津子による『グラトリ』の字幕についてアレコレ伺った際、「翻訳者泣かせの脚本だったわりに、今回、戸田奈津子は頑張っていたのでは・・・?」という感想をいただきました。

そして、女史の翻訳うんぬんというよりは日本語字幕の表現の限界ということで、主人公ウォルトの最後のセリフを例に挙げてくれました。

ここのウォルトの字幕によるセリフは・・・、

ああ、マリア様・・・

となっているのですが、

原語では、

Hail Mary, full of grace.

と言っています。

これはカトリックの「聖母マリアへの祈り」=「天使祝詞」という祈りの言葉の冒頭の部分で、ググると「恵みあふれる聖マリア」という日本語訳が一般的のようです。

むっしゅさんによれば、このセリフには伏線があって、それはギャングのたまり場に行く前にウォルトが教会で懺悔するシーンです。

ウォルトが少々間の抜けた懺悔をした後、神父さんがこう言います。

「神はあなたを許します。天使祝詞を10回唱えなさい」。


このシーンの神父さんの一連のセリフは原語だと・・・、

FATHER JANOVICH:
God loves and forgives you. Say ten ‘Hail Marys' and five ‘Our Fathers.'
Are you going to retaliate for what happened to Sue?
(Walt says nothing. Father Janovich looks hard at Walt.)

ヤノビッチ神父:
「天使祝詞」を10回、「主の祈り」(主祷文)を5回唱えなさい。
あなたはスーの件で報復するつもりですか?
(ウォルトは何も言わない。ウォルトをじっと見詰めるヤノビッチ神父)



Gran_jimaku1字幕では、「主の祈り」の部分が省略されていましたが、これらは教会で懺悔をした際に神父が言うお約束の言葉だそうです。

ト書きにあるように、ウォルトは何も言わず、場面もそこで変わってしまうので、結局教会で祈りの言葉は唱えなかったということになります。
しかし、最後の最後の瞬間にそれが口をついて出たということで、(むっしゅさん曰く)今まで出来なかったウォルトの改悛の言葉だったということになります。



西洋の人なら、なぜウォルトがここでこの言葉をつぶやいたのかすぐにピンとくるのでしょうが、英語がわからず、しかもカトリック信仰に熟知していない日本人には原語を直訳して「恵みあふれる聖マリア」としてもわかりにくいでしょう。
でもここを理解していると、あの場面がより味わい深くなりますよね。

「改悛と赦し」・・・、う~ん、深いゾ、「グラトリ」・・・。



・モンとミャオ


公開前、ネット上の「グラトリ」について解説した一部のページやブログで「ミャオ族」として表記され、日本版ウィキの解説もいまいちわかりづらかったので、正直どっちなんか?と思ってたのですが、結局はモン族の表記で通されたようですね。

Gran_jimaku2それで、劇中、ちょっと個人的にひっかかったシーンが。
スーとヘナチョコBFが黒人ブラザーにからまれ、見かねたウォルトがスーを車で送る件。

正確な字幕は覚えてませんが、車内でウォルトが彼女のルーツを聞こうとして「ミャオ族」と言いかけると、スーが「“ミャオ”じゃなく“モン”よ!」と指摘し、ウォルトが「それで、“ミャオ”・・・いやモン族はどこから来たんだ?」と尋ねると「おお、もの覚えが早いじゃん!モンは場所じゃなく、人種よ」みたいなやりとりがあります。


この字幕のニュアンスだと、ウォルトが「ミャオ族」と「モン族」の区別がつかず混同している感じなのですが、実際、ここの原語は・・・、

WALT: Why in the hell would you go out with a clown like that. Why don't you date one of your... own...one of those other... Hu-mungs.

SUE: You mean, Hmong? We're Hmong, not Hu-mung.

ウォルト:「いったいどうしてあんなアホと付き合ってるんだ。なんで自分と同じ・・・そのなんだ・・・フーマン族の奴とデートしない?」

スー:「モン族のこと? 私たちはモンよ、フーマンじゃないわ」

上記の"Hu-mung" というのはググっても該当せず、また「ミャオ族」は "Miao" という語がちゃんとあるので、ここはウォルトが単に発音を間違って覚えていたみたいな感じだと思うのですが、ここで「ミャオ族」と置き換えても話は成立してますな(笑)。



まあ、それはどうでもいいのですが、今回の「グラトリ」はこれまでのイーストウッド作品中、一番英語力が必要とされる、つまり原語を知ってると、より理解できる作品なのではないでしょうか。

よくアメリカのコメディ映画では日本人はセリフを半分も理解できないから楽しめない・・・なんてことを言われます。
もちろん、過去のイーストウッド作品も原語を知っていれば、より作品を理解できることは確かでしょうが、おおきな誤訳でも無い限りは、字幕でも充分把握できると言ってよいでしょう。

ただ本作は、ウォルトの数々の差別用語を含め、かなりセリフが“深く”、英語が出来ないと、お笑い度やシンミリ感が3割方減っちゃうような感じがします。

「キネ旬」の小林×芝山対談において、いろいろ芝山氏がセリフの妙について触れられ、面白く読ませてもらいましたが、日頃、何かとツッコまれる“ナッチ訳”は私も健闘してたんじゃないかって思います。
もし、イーストウッドがキューブリックみたいな注文つけてきたら、『フルメタル・ジャケット』並みの凄い字幕になってたような気もしますが(笑)。




そんなわけで、上で書いた原語のセリフは、

"IMDb" の脚本版(?)サイトから引用したものです。

http://www.imsdb.com/scripts/Gran-Torino.html


みなさんが各自で印象に残った、もしくは引っかかったセリフをチェックしてみるのも一興かと。

2009-07-03

『グラン・トリノ』雑感(その1)

あれやこれやで、すっかり遅れてしまった「グラトリ」の雑感でございます。

やや時期を逸してしまった感もあり、DVD化された際にまとめて書こうかとは思いましたが、最近は物忘れがひどいので、思ったことの記憶があるうちにちょっとでも書いておこうかという、“ショート・バージョン”でお送りします。

※※※ ネタばれ全開ですので、未見の方は御注意下さい ※※※

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◆ ビール、タバコ、料理!


Gran_food最初の鑑賞時、見終わってすぐに中華料理店に直行、鶏の唐揚げや春巻きなどを頼んで青島ビールで一杯、タバコを吹かして、気分はもうすっかりコワルスキー状態でした。

『ルーキー』や『ブラッド・ワーク』のドーナツ、『ミリダラ』のレモンパイとかイーストウッド作品ではいつもちょっとした食べ物が印象に残るのですが、最近の作品は甘いものが登場することが多く、即「食べてぇ~!」って感じにはならないのですが、私は中華料理好きなので、今回のタオの家でのホーム・パーティーのシーンにはやられました。
アレは正確には中華なのかベトナム料理か詳しくはわかりませぬが、私もスーに招待されたかったッス。

70~80年代の出演作にはビールはよく登場してましたが、90年代に入ってからはすっかりご無沙汰。
『ザ・シークレット・サービス』ではウィスキー、『トゥルー・クライム』はトマトジュースか、ブラッディ・マリーかよくわからんカクテルを飲んでましたね。


Gran_beer『スペース・カウボーイ』では久々ビールが登場するのですが、自宅のガレージで通信衛星の設計図を見ながら昔をふと回想するシーンでミラーの瓶入りライトビールを一瞬口にするワンカットのみ。
NASAでの訓練期間における酒場のシーンでは、どっちがモテるかとトミー・リー氏とケンカになってしまい、アルコールを飲むカットは無いんですよね。

『ブラッド・ワーク』では(医者から止められてるのか?)飲酒のシーンはなく、その代わりにジェフ・ダニエルズが缶ビール・オタクなのか、キリンの輸出版「一番搾り」などを飲んでましたが(笑)。
続く出演作「ミリダラ」でもこれまた飲酒の場面はなく、考えるに、ビールを飲む場面が頻繁に出てくるのは、1986年の「ハートブレイク・リッジ」以来、久々なんじゃないでしょうか。




Gran_smokeタバコについては、過去多くの作品においてイーストウッドは吸ってますが、そのほとんどは葉巻で、箱入り紙巻きタバコは『トゥルー・クライム』と本作ぐらいなのかな。

実際のイーストウッドはタバコ嫌いなので、各作品中の喫煙シーンは吸っているというよりは指に挟んで煙をたゆらせているか吹かしているカットばかり。「トゥルー」の喫煙シーンにしても会話中、考えごと中、目的地への運転中とかで、実際に口にして吸わなくても良いシチュエーションというのををうまく利用してますな。

今回の『グラトリ』もそうした吹かしている場面も多いのですが、今までちょっと違うのは、ジッポ・ライターによる着火シーンが多いこと。

おなじみの西部劇での葉巻の着火シーンは、とりあえず火を付けたところでカットをすぐ変えてるので、実際に煙は多く吸い込んでいないのですが、今回は火を付けて「プハー」としてる動作も写しており、けっこう煙は吸い込んでると思われます。

これはタバコを吸わない人にはわかりにくいのですが、火を付けてしまった後で吹かす(肺には入れずにただ口から煙を出す)行為は簡単なのですが、着火時だけはある程度肺に入れないとタバコに火が付きづらいのです。
もちろん、着火時も吹かすだけということは可能ではありますが、ヘビー・スモーカーの動作の描写としては不自然であり、“メソッド演技”命の役者なんかは絶対にしないでしょうな。

Gran_zippo_2
これはイーストウッドにとってはややツラいところでしょうが、この着火カットの多さはたぶん、ラストの伏線となる、米軍「第一騎兵師団」のシンボルマーク入りジッポの存在を引き立たせる上で必要不可欠な演出だったんじゃないかなと推測していますが。

因みに、「第一騎兵師団」マーク入りのジッポは過去に何タイプも生産されるようで、本作に登場するジッポは映画用に作られた小道具のようです。


参考までに(ジッポの公式サイト・英語)

http://www.zippo.com/NewsAndEvents/Did_you_see_the_Smallest_Star_in_Gran_Torino.aspx?article=1343e4c0-3368-44ed-b494-2221a40721a1&bhjs=0



あと、エンド・クレジットには、こんな一文があります。

"No person or entity associated with this film received payment or anything of value, or entered into any agreement, in connection with the depiction of tobacco products."

(タバコ製品の描写に関して、本作と関係がある個人もしくは団体が、対価か何かを受け取っていたり、何らかの協定を結んでいることはありません)


最近は、CMはもちろん、映像作品におけるタバコを吸う描写も規制されて作り手側も自粛気味ですが、主人公の暴言(差別用語=放送禁止用語)とかも含め、アメリカの人は規制の厳しいテレビでは観られない描写やセリフ表現を味わうことが可能という点で映画を楽しんでいる、つまりテレビと映画の差別化が出来てると思いますが、その点、日本だとそういう規制は無いのに加え、映画しか出演しない役者というのもほとんどいないし、人気ドラマがすぐに映画化されたりと、テレビと映画の垣根というのか区別がほとんど無いですなあ。


そんなわけで、「グラトリ」はなんか久々、“食感に訴える”イーストウッド作品でありました。


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